いつもお世話になっております。
大学病院の方もこのコロナ禍での対応に追われ、さぞや大変な毎日とご拝察申し上げます。
その中で些少な事と思われるかもしれませんが、私たち医療従事者だけではなく、全ての方々の生活にも関わるかも知れない内容ですので、どうか少しだけお時間を頂ければ幸いです。
さて、当院は毎年近隣の医科大学病院の研修医を受け入れさせて頂いておりますが、この度、前年度研修度の事後感想の中で、「採血時の手袋の装着を禁止されたので改善してほしい」との感想がございました。
実は私は、この感想に関して少し驚くとともに、幾ばくかの落胆と違和感を感じております。
確かに当クリニックでは患者の採血時に全例に手袋を装着するとの取り決めはありませんが、一方で手袋の装着を希望した場合にこれを拒否した覚えも、少なくとも私にはございません。
しかしながら当院がスタッフ全員に採血時の手袋装着を義務づけていないのも事実であり、その理由は、手袋装着による感染や事故の予防効果に対しての明確な医学的根拠を示した論文が見つからないからです。
私もいくつかの論文を調べてみましたが、感染防止のためや針刺し事故防止のため、と言う文言は見当たりますが、それらの効果についての医学統計学的な根拠を明確に記したものは見当たりませんでした。
それどころか、「採血時手袋装着率向上の有効策…」の様に手袋装着の効果よりもする事自体を目標とする論文も見受けられます。
また中には、「米国の大学病院では全例に手袋装着をするのが、ほぼ当たり前になっている」など、もはや科学的な論文とは思えないような理由付けを平気で記しているものさえも見受けられます。
これでは、かつて米国の真似をして日本中の医療機関でつけていたネックストラップ方式のネームホルダーと変わりありません。
医療行為を行う上で、これほど邪魔で危険で、非衛生的なものはなかったでしょう。
ナースキャップの非衛生不要論などとはまったく比較にもなりません。
しかしまた、これらに対して、「標準予防策としての手袋着用は…すべての採血時に手袋を着用すると言う意味ではない」とする論文もあります。
私がこの全例の手袋装着に疑問を持ったのは、私事でとある都内私立大学病院を受診し、そこで採血時の1例毎の手袋交換と、何と眼科では患者毎はもちろん、各種点眼液毎に数回点眼する度に手袋交換(恐らく患者数から病院全体では1日数千セット以上の手袋の使用になるでしょう)を見て、衝撃を覚えるとともに、強い疑問や違和感を感じたからです。
「果たしてこれらのプラスチック手袋の患者ごとの装着・交換は、医学的に合理的と言えるのだろうか?果たして、医療者や患者の感染事故防止や安全に本当に役立っているのだろうか?もし、その様な効果が十分に得られないまま漠然と使われているとしたら、ただ悪戯に、永遠無限に膨大な感染性医療廃棄ゴミを増やし続けているだけではないだろうか?」
ゴミの排出、特にプラスチックよる環境汚染とCO2排出による地球温暖化に伴う地球の気候環境の急激な変化は、今や世界規模の問題となっており、歴史的規模のハリケーンやサイクロンの多発発生、カリフォルニアやオーストラリア等での度重なる、四国をも超える程の巨大な面積での山火事、日本でも全国の豪雨による洪水や地すべりや山崩れ、家ごと吹き飛ばされる程の暴風雨など、気候環境の暴走を挙げれば、数限りないほどです。
一方でこれらのゴミによる環境汚染と破壊の問題は、事実上の宗主国とも言える米国と共に、日本は世界で最も関心が薄く、その対策においても、理念的な京都議定書を除けば先進国の中では、米国と共に最も消極的な国と言う不名誉を負わされてきました。しかしながら今やその米国でさえも、自国の利益以外には全く興味のなかったトランプ政権とは異なり、バイデン政権ではこの環境保護、ゴミの排出削減、温暖化防止と言う方向に大きく舵を切り始めました。
その原動力となったのが、世界の若者の声に押されてゴミ問題・環境問題に積極的な対策を取るようになってきたEU諸国の環境対策・エネルギー政策転換と、やはりこれも米国国内自体での若者たちの声の盛り上がりです。
その結果、若者も含めてすべての世代で環境問題に無関心な日本は、今や世界で最も環境問題対策の遅れた国となろうとしているのです。
もちろん、そう言う私も、かつては圧倒的な米国の豊かさと先進性に憧れて育った、恐らく最後の世代ですし、医師になったばかりの若き日に、アメリカの「ディスポーザブル(使い捨て)医療」の現実を目の当たりにして圧倒された一人です。
何しろガーゼやタンポンはもちろん、メスやピンセット、覆い布やシーツ、手袋、ガウン、マスク、ヘアキャップに至るまで、およそ手術台とトレイ、手術灯以外は全て使い捨てだったからです。勿論、その当時日本の一般病院では、それら全ての物を洗って再滅菌し、再利用していました。
「さすがはアメリカ、日本などとは全く違う!」そう思って感嘆したと同時に、ある疑問が湧いてきました。
「それはいいけど、この感染性医療廃棄ゴミは、一体どうするのだろう?全て使い捨てという事は、無限に供給し続けなければならない事が前提だが、その資源や財源はどうしているのだろう?」
果たしてその結果が、溜まり続ける一方で、地球環境を破壊し続けていくゴミの集積であり、もし資源が足りなくなれば、イラク戦争後の油田のように、他国と戦争してでも奪いとってくるという、米国ならではの究極の暴力的なエゴイズムだったのです。
ともあれ今やその米国だけでなく、あの中国までもが、プラスチックを始めとするゴミやCO2の排出規制、環境保護に大きく舵を転換しようとしている今、私たち日本の医療従事者も、これらの感染性医療廃棄ゴミ排出と環境汚染の問題には無関心ではいられませんし、いるべきでもありません。
私たち日本人もこの小さな地球の一員として、この惑星の環境破壊を見て見ぬふりをする事は許されません。
その時になって、「私たちは何も知らなかった」では済まされないのです。
あと1℃、地球の平均気温が上昇すれば北極海の氷の殆どが融解し、それに続いてシベリアの永久凍土が融解し、閉じ込められていた夥しい量のメタンガス(CO2の30倍の温室効果)が爆発的に噴出し、地球環境は徐々に乾燥して砂漠化して暴走し、常時時速100km/時以上の嵐が吹き荒れ、結果として人類はこの地球上で暮らす事が出来なくなると言われています。
そのタイムリミットが2030年、後10年もないのです(NHKスペシャル:「2030年の分岐点」。これと同様のドキュメンタリーは英国BBCでも独国ZDFでも放送されています。)
2030年までの今後10年間の私たちの行動で、天文物理学アテナ・ブレンスベルガー氏の言う様に、地球は、かつて水を湛えていたとも言われる今の金星と同じく、摂氏460℃の大気の吹き荒れる灼熱の惑星に向けて変化し始めるかも知れません。
果たしてスーパーのプラスチック容器の過剰包装と同様に、採血時の全例手袋装着と患者毎の交換は、本当に必要なのでしょうか?
私たちは、自分たちにできる事を直ぐにでも始めなければなりませんし、それが国際社会からも求められているのだと思っています。
というよりも、この地球上で私たち人類が生き残るためには、それ以外に方法はないと言うことだと思います。
繰り返しになりますが、その時になって「私たちは何も知らなかった」では済まされないのです。
とは言え、またもし、前述の採血時の手袋の全例装着が、患者さんや医療従事者の感染防御になっているのだという明確な医学的疫学的根拠をご存知でしたら、お手数でもぜひとも非学な私にご教示頂ければ幸いです。
それでは皆様のますますのご発展をお祈りし、今後ともよろしくお願い申し上げます。
2021年6月
医)あんベハート・クリニック
理事長 安倍 次郎
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